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【超高精度】水晶振動式圧力計とは?工学分野・インフラサウンドの観測事例

圧力計には、抵抗膜方式や静電容量方式、圧電素子方式などさまざまな物理現象を用いたものがあります。各方式にはそれぞれメリット・デメリットがあり、用途や要求される精度に応じて適切な方式を選ぶのが一般的です。用途によっては、微小な圧力変動を計測できる高精度の圧力計が必要となるケースもあります。今回は、圧力計の中でも超高精度の圧力計である水晶振動式圧力計について解説していきます。

 

水晶振動式圧力計とは?

水晶振動式 圧力計
水晶振動式圧力計とは、圧力によって振動数が変化する特殊な水晶振動子を利用した圧力計のことです。通常、高精度に分類される圧力計でも1/1000程度の精度となるのが一般的ですが、水晶振動式圧力計だと1/10000の精度まで圧力を計測できる特徴があります。水晶振動式圧力計は、一般的に高精度と呼ばれる圧力計でも計測できない圧力変化を正しく計測できるので、さまざまな分野で広く活躍しています。

 

水晶振動式圧力計の原理・仕組み

人差し指を立てるビジネスマン
ひずみゲージで発生する電気信号を用いる一般的な圧力計に対して、水晶振動式圧力計は圧力による応力で振動数が変化する精密水晶振動子を用いて圧力変化をとらえます。

圧力変化によって圧力計の中にあるベローズやブルドン管に負荷がかかり、その負荷が水晶振動子に伝達します。水晶振動子に負荷がかかると、振動子から発生する周波数が変化するので、その周波数変化を読み取って加圧力を測定しているのです。

水晶振動式圧力計は設定によりますが、最大で10億分の1という高い分解能を有し0.01%(あるいは0.008%FS)の精度を誇っているので、ごく微小な圧力変動を測定するのに適した圧力計です。加えて、衝撃や振動に対する堅牢性が高く、長期にわたって安定的に機能するので再校正の手間もかかりません。

水晶振動式圧力計の価格は、一般的な高精度圧力計に比べると10~100倍になってしまいますが、他にはない圧倒的な利点があることから工学分野にとどまらず、自然科学分野でも活用の幅が広がっています。

 

水晶振動式圧力計の用途(工学分野)

作業員の女性
工学分野における水晶振動式圧力計の適用例として3つをあげます。

 

|高精度圧力計の検査

水晶振動式圧力計は、その高い精度を生かして一般的な高精度の圧力計を検査するのに用いられています。一般的な高精度圧力計の精度は0.1%程度なので、0.01%の精度を誇る水晶振動式圧力計を用いることで圧力計の品質を保証できるようになります。高精度圧力計の検査は、水晶振動式圧力計の最も一般的な用途です。

 

|密度計、湿度計などの校正

水晶振動式圧力計は、密度計や温度計の校正にも利用可能です。密度や温度は圧力条件によって変化することが知られています。もし、圧力条件を整えないまま密度計や温度計の校正をしてしまうと、誤った校正をしてしまう可能性があります。超高精度の水晶振動式圧力計を用いることで、圧力条件を一定にした上で、密度計や圧力計を正しく校正できるようになるのです。

 

|半導体の露光装置

水晶振動式圧力計は、半導体に回路パターンを露光する際にも用いられます。半導体の回路パターンを露光装置で形成する際に、微小な空気のゆらぎがあると光波干渉距離計に影響を与え、回路パターンにわずかな歪みを生じてしまうからです。その歪みは最終製品の品質に影響を及ぼすこともあります。水晶振動式圧力計を用いて空気ゆらぎをコントロールすることで、わずかな歪も許さずに回路パターンを形成できるようになるのです。

 

水晶振動式圧力計の用途(自然科学分野・インフラサウンド)

波しぶき
水晶振動式圧力計は、通常の圧力計では対応できない自然科学分野でも活用が進んでいます。特にインフラサウンドと呼ばれる人間の耳には聞こえない超低周波音波を計測するのに使われています。超低周波の微小な圧力変動をとらえることで、遠隔地で発生した大規模な変動を知ることにも役立てられるのです。

 

|津波の予測

圧力計を海底に沈めることで、海水の重さを測れるようになります。超高精度の水晶振動式圧力計を用いると、海底7,000mの場所から、海面で発生するわずか1mmの波を計測できるようになるのです。地震発生後のわずかな波の変化をとらえることで、津波の高さや到達時間をより正確に予測できるようになります。

実例を2つ紹介します。1つは海洋研究開発機構の地震・津波観測監視システムDONET(Dense Oceanfloor Network system for Earthquakes and Tsunamis)です。DONETは、熊野灘沖の南海トラフで起こるとされている東南海地震を想定したもので、2011年から本格運用されています。DONETでは、紀伊半島・四国沖深海2000-4000mに敷設された海底ケーブルに50台の水晶振動式圧力計を設置。圧力計が24時間365日計測している微小な波の変動を記録することで、地震・津波発生時の災害予測・被害軽減に役立てられるようになっています。

関連記事:地震・津波観測監視システムDONET

もう1つは、東日本太平洋沖の地底地震津波観測網S-net(Seafloor observation network for earthquakes and tsunamis along the Japan Trench)です。2011年に発生した東日本大震災のとき、津波の高さは当初5mと予想されていましたが、実際には10mを超える津波が押し寄せました。震災時に正確な津波予測ができなかったことを踏まえて、最大7000mの深海に敷設された海底ケーブルに設置して波の情報を日々記録し、将来の災害予測・被害軽減に備えています。S-netの海底ケーブルには、150地点(300台)の水晶振動式圧力計が用いられています。

関連記事:日本海溝海底地震津波観測網:S-net

 

|火山活動の観測

水晶振動式圧力計は、火山活動の遠隔監視にも用いられています。たとえば、2009年10月3日に発生した桜島火山の噴火では、噴火により生じた低周波音を987km離れた東京の監視局で測定できたことがわかっています。

また、2022年1月に発生したトンガの火山噴火でも定常的な観測の重要性があらためて認識されました。トンガの火山噴火では、気圧の変化によって津波が発生し、日本にも1mを超える津波が押し寄せました。幸いにして人的な被害には至りませんでしたが、今後は火山活動によって起こる微小な気圧変化をとらえることが、津波予測・被害軽減につながることが認識されたのです。このような火山活動の観測でも、今後水晶振動式圧力計の活用がさらに広がると期待されています。

 

|超音速飛行体から生じる衝撃波の観測

水晶振動式圧力計は、超音速飛行体から生じる衝撃波をとらえることもできます。たとえば、スペースシャトルは宇宙から帰還する際に大気圏を通過しますが、その際に生じる衝撃波を計測可能です。また、隕石が地球に落下する際の衝撃波をとらえることもでき、その衝撃波を正確に計測することで、隕石の落下地点を予測・推定することも可能になります。

 

まとめ

一般的な高精度圧力計よりもさらに高い精度を誇っていることが水晶振動式圧力計の特徴です。その精度は0.01%(あるいは0.008%FS)、設定によりますが、最大で分解能は10億分の1になります。水晶振動式圧力計は、高精度圧力計の検査にとどまらず、今まで観測できなかったわずかな圧力の変化を観測可能にすることで、さまざまな自然現象の把握・特定に役立てられている圧力計です。自然現象の正確な把握・特定は地震・火山噴火に伴う災害予測や被害軽減につながります。株式会社クローネでは、水晶振動式圧力計を長年製造・販売しているParoscientific(パロサイエンティフィック)社の水晶振動式圧力計を多数取り扱っています。ご興味をお持ちの方は、ぜひ株式会社クローネまでお問い合わせください。

水晶振動式 圧力計
>>株式会社クローネの水晶振動式圧力計
 
また、汎用的に利用できる圧力計を含めたさまざまな計測機器も取り扱っているので、計測機器のご要望がある場合も、クローネまでご連絡ください。

 
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